絵子の縁側便り 5月号

2024年5月
谷合 公子

 新緑の季節がやってきました。冬の間すべての葉を落としていた落葉樹が新芽をつけて鮮やかな緑の葉を茂らせていくさまを見ているととてもリラックスできます。そんな今日この頃、新聞を広げたら「なるようになる。 僕はこんなふうに生きてきた」という養老孟司氏の“初の自伝”と銘打った本の広告が目に飛び込んできました。「なるようになる」という言葉に反応した私は、がんと診断された14年前を思い出しました。本の題名を読んだだけですが、私も「なるようになる」と思って毎日を過ごしてきたのです。が、がんと診断された時は心が乱れました。ただただ慌ててパソコンの前に座りインターネットのがん情報を探しました。そこにはがんに罹患していることを受け入れられない自分がいました。

 最初は何かの手違いで別人のカルテに私の名前が書き入れられていると真剣に思いました。がんと診断されたと認めたくない私がネットで探すと、同じような情報が多く集まり、それに共感しフォローする意見が循環して強まり、偏った情報に取り囲まれるようになりました。こだまのような情報が集まるので自分の考えが正しいかのように思ってしまいました。さらに、興味や好みに合った情報のみが提示されるインターネット検索のアルゴリズムにより異なる意見の情報が入りづらくなってしまいました。ソーシャルメディアで情報を得る際に注意すべき現象として前者を「エコーチェンバー」、後者を「フィルターバブル」ということを後に知りますが、当時は全く無防備でした。今ならば、国立がん研究センターが運営するがん情報サービスなどのエビデンスのある正しいがん情報を載せたサイトを見るのですが、当時は玉石混交の情報の中をさまよっていました。私は、「あなたはがんに罹患していません」という言葉を探していたのかもしれません。ある時ネット上で術前の病理検査のセカンドオピニオンを取ったら判定が変わったという情報を見つけて、私ももしやと思い主治医に相談しました。すると主治医は、「当院の病理判定は当院と○○がん病院とでダブルチェックしていますがセカンドしますか」と話されました。私はこれを聞いて体の力が抜けて、ようやくがんの罹患を認めることができました。幸いにも私には信頼でき、話を聞いていただける主治医がいました。結果、安全性、有効性が臨床試験で証明されたエビデンスのある標準治療に導かれたのでした。

 さらに、ブーゲンビリアに入会しエビデンスのあることを学び仲間たちと経験を分かち合うことができました。孤立しないで医療者等とつながり対話することと、偏りが無い正しい情報が不可欠であることを痛感しています。手前味噌ですが4月からスタートしたブーゲンビリア勉強会&おしゃべりサロンは、エビデンスのある勉強ができ仲間たちとおしゃべりする場になっています。毎月第2木曜日開催予定です。興味のある方は是非参加してください。お待ちしています。

 1年を通じて桜の木を眺めることが好きです。5月は、4月に咲いた花が散り、葉桜になり、新緑の鮮やかな若葉をつけた木となり悠々と存在しています。桜の木から元気をもらい毎日を過ごしていきたいと思います。

 過ごしやすい季節です。ゴールデンウイークも始まっています。皆さんが5月を楽しまれるよう念じています。

 Photo by 玉井八平氏(玉井公子副理事長父)