絵子の縁側便り 4月号

2024年4月
玉井 公子

今年の桜は例年より少し遅いようですね。皆様の所ではいかがでしょうか?

 暖かいにつけ寒いにつけ、雨だ風だとどうして桜はこんなにも人の心をざわつかせる存在なのでしょうね。私などは桜を「花粉」と変えて読みたいくらいですが。

 今日は桜の好きだった祖父の行っていた漢方のお話を書きたいと思います。父方の祖父は私が小さいころ、和歌山の白浜で漢方医をしていました。祖父の母方は代々漢方医をしていたそうです。生薬の匂いのする部屋で、お客さんにお灸をすえる祖父を、こわごわと覗いていました。
 漢方というと古い治療だとか、副作用が無いけどあまり効かないとかいうイメージをお持ちの方が多いようですが、最近世界的に注目が高まっていると先日NHKの番組で知りました。

 漢方薬の効き方に個人差が有るのは知られていましたが、その差が各自の腸内細菌に由来することが分かったそうです。悪玉菌の多い人は効き目が表れにくいので、まずは腸内細菌のバランスを整えるところから治療を始めるのです。祖父が「漢方薬から抽出した成分だけで新薬を作ってもあまり効かない。色々な生薬の配合でこそ効き目が有る」と言っていたのが思い出されます。
 また、アフリカでは極貧地域の医療を受けられない人々に、お灸をすえることで蔓延する結核の症状緩和をしているそうです。もぐさとお線香だけで行えるお灸は、実施する側にも経済的負担が少なく、特別な資格も必要ないので、ボランティアの人々が多くの人に施術していました。
 ヨーロッパアルプスで発見された、紀元前3300年ころのミイラ、アイスマンは有名ですが、彼が生前腰痛持ちで、その症状を緩和する漢方の「ツボ」と一致する箇所に何か所も入れ墨をしていた話はそこまで知られていないかも知れません。

 漢方には「未病」という言葉が有ります。まだ病気とは言えないけど、放っておくと病気になるよ、という考え方です。健康と病気とはこの数値からきっちり分かれるのではなく、グラデーションになっているので、早めに元に戻していこうという考え方です。
 血圧やコレステロールが上がり始めているから食事に気を付けてとか、運動しましょうというのがそれにあたります。ロコモや認知症の予防などもありますね。厚生労働省も「未病」という言葉を使うようになりました。

 ツボへの入れ墨はともかく、ツボを押すことは、誰にでも簡単にできます。疲労回復、免疫力アップ、血圧を下げるなどのツボは、手のひらや首肩辺りなどにもあり、電車に乗っている時や、テレビを見ながら、ブーゲンビリアの講演会を聞きながらでも、さりげなく押すことができます。父もしょっちゅう手の「合谷」や、肘の「手三里」のツボを押していました。青竹踏みも良いですよね。
 ツボの場所はインターネットでも簡単に検索できますし、わかりやすい本もたくさん出ています。血流を改善すれば、多くの病気や症状も改善されると言います。私は風邪をひきそうな時には、第7頸椎の辺りに使い捨てカイロを貼り、葛根湯を飲むことで撃退しています。
 ハードな仕事と夜型の生活ですが、還暦を過ぎてもいまだに病院のお世話にならず、お薬も飲んでいないのは、おじいちゃんのおかげかもしれません。

 これからいよいよ春本番です。ちょっとした不調や未病を漢方で撃退して、花いっぱいの明るい季節を過ごしていただけたらと思います。
 今月の写真は、2011年、東日本大震災直後の福島県三春町の滝桜です。 お天気が良くなくて、ちょっと暗い空なのが残念ですが、普段なら大混雑の滝桜が、ぽつんと立って地震にも原発事故にも負けず、見事な花を咲かせていたのが印象的でした。
 今年もお正月から能登で大きな地震がありました。一日も早い復興と、犠牲者の方々のご冥福をお祈りいたしております。

 Photo by 玉井八平氏(玉井公子副理事長父)