♪ブーゲンビリア第121号(通巻188号)2015年1月号より

新年明けましておめでとうございます。
皆様には良き年をお迎えになられたこととお喜び申し上げます。
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 私事で恐縮ですが昨年の暮れ二男が結婚しました。安曇野の四季折々の美しさと澄んだ空気に、気高い穂高に見守られながらすくすくと育った娘さんが、息子と人生を共に歩むことになりました。花信風のように寒の入りの寒さでも忘れることなく開花を知らせる風となり、また時には春の作物を潤す花信風となり大地を見守る誠実さに心がほっこりと温かくなる日々です。

 冬の季節を古代中国の医学書では「閉蔵」といい、寒さに閉ざされて身体機能は低下し精神も内に籠りがちになり、寒気に順応してじっくりと構え春の暖気を楽しみに待つ時節と捉えているようです。各医療関係者の命がけの使命感のおかげで日本の医学の進歩には目覚ましいものがあります。でもそれと同時に一方では、病の種類は増え続け難病の指定を受けた患者も増加の一途をたどっています。患部を分析して原因を求め、症状のみを取り去るための研究や技術の進歩がありますが、それと同時にまた心の問題も多様化してきたのかも知れませんものね。

 ストレスを引き起こす刺激(ストレッサ―)には、物理学だけでなく、心理的な刺激の占める割合が大きくなっているのかもしれませんね。 身体と心の両方をひっくるめてまるごと「その人」なのですから、こころと身体はつねにお互いを映し合っています。何か問題を抱えていて、こころが委縮しているときは、身体がこわばり、硬くなります。そんな時は、身体面からアプローチすることで、こころをふんわりと解きほぐすこともできます。

「先進国の多くの病気は無理な生き方や心の悩みからくるストレスが原因」との定説にうなずける面も多々あります。高杉晋作ではありませんが、「おもしろき事もなき世を(に)おもしろく」・・・・・。心の持ち方一つでこの世がおもしろくなったり、ならなかったりするのだと思います。ストレスにも生体の適応力を高めるプラスのストレス、またマイナスのストレスもプラスに転化できる英知を人間はもっていると信じています。

 病気といってもあらゆる症状が多様なように、病気を受け入れる心も、様々に揺れ動くものですよね。時にはストレスで、わが身の不幸を嘆き自分や他人を責めることもあるかもしれません。どんなに強そうに見える人でも、不安や焦燥とは無縁ではないはずです。

 作家の曽野綾子さんが数年前新聞のコラムに次のような文章を寄せていました。

「日本の状況すべてが行き詰まり、息詰まっている。政治にも経済にも、個人の生き方にも、勢力(精力)が失われたまま、どうにもならない。私はこの生命の流れを反対の方向に向ければ直せると思うのだが、世間はおそらくそれを認めないだろうから病は重症のままだ。現在の日本人すべてが求心的、内向的なのである。これを外側へ向けてやればいいのだ。(略)人生は危険を冒しても自分の好みで決めるものだ」と綴られていました。

「泣こうか、ひっ翔べ」というのは薩摩地方に伝わる言葉だそうです。苦境を嘆くばかりでは状況は変わらない。泣くより翔んでみよという意味だそうです。

 司馬遼太郎さんの小説「翔ぶが如く」の題名もそこから生まれたとのことですが、 司馬さんは、この言葉に惚れ、「ある意味、それは日本を変えた言葉だった」と語られました。新しい国づくりのためには命も名も惜しまなかった明治期の薩摩人の気質を称賛しているのです。

「ひっ翔べ」とは、きっと人間の姑息な知恵や理屈や計算を翔び超えよという懐の深さを感じます。胸が熱くなるようなことば「翔ぶが如く」は、日本人に向けた応援歌のように胸に届きました。

 「言葉はいのちの発動、魂の息吹で、威力にあふれている」と感じることはありませんか。世の中は、自己と他所との微妙な関係が織りなす状況の下で成り立ち、一糸乱れぬ秩序のもとに、自然は生成発展を遂げています。人間はもっと謙虚に大自然のみごとさに学ばなければいけないと思います。

ドイツの作家、天性の哲学的詩人のヘルマン・ヘッセの詩を楽しんでください。

 歌え、心よ! 今がお前の時である。明日まで生きているという保証はない。
 星が輝いているのを見ないのか。 鳥が唄っている声を聴かないのか。
 歌え、心よ! お前の時が燃えている間に。

 「日々の忙しさに追われてこのまま歳を重ねるだけでよいのでしょうか。美しい自然や妙なる音楽に心を閉ざしてはいないのでしょうか。やりたいことがあれば、何故もっと積極的に取り組もうとしないのでしょうか。人生はたった一回限り、二度と再び繰り返すことはないのですから・・・・・」と、先人たちの叱咤激励の声が聞こえてくるようです。

「今」を大事にあらんかぎりの真心とやさしさをこめて悔いのない人生を生きましょう。

皆様にとって、健康で健やかなよき一年でありますようにお祈り申し上げます。