♪ブーゲンビリア第86号(通巻153号)2012年2月号より

【 いのちのバトン・薬はみんなで作るもの 】

 今から18年前の乳がん闘病体験は「人は一人では生きられない。人生は無限ではなく有限である」ことを教えてくれたように思います。病んだ内なる自分を理解しようとがんと向かい合ったら、友人や環境とのより幸せな状況が生まれてきました。

 思えば1993年12月シンガポールで乳がんの告知を受け、その後、全摘手術、抗がん剤治療、乳房再建手術を受けました。誰もが感じるように私にとっても乳がんは晴天の霹靂の出来事でした。乳房再建手術後、貧血がひどく急遽輸血を受けることになりました。すったもんだの末、悲壮感一杯の私は、深夜の個室で心細く、只ただ点滴の赤い血液が落ちるのをみつめていました。ふと・・・・この血はアジアの人からのいのちの贈り物ではないかと・・・・自身の内なるいのちについて考えた夜でした。

 当時44歳の私は比較的冷静で前向きな闘病生活を過ごしていました。でも時に異国での闘病生活は緊張や孤独感、寂しさに襲われました。そんな私を温かく受け入れ冷静に寄り添ってくれた立花幸子さんの存在は本当にありがたいものでした。子どもの成長を静かに見守る母親のような伴奏者の立花幸子さんの存在に支えられて、私は安心して前向きに乳がんと向き合うことができたのです。幸子さんの客観性に助けられたこの出会いの恩返しもせずに時間が過ぎ去っていきました。幸子さんは今も遠くからそっとブーゲンビリアの一会員として活動を応援してくれているのです。

 活動に疲れた日には、私はこの豊かな出会いをそっと思い出し初心に戻ります。そして、あの夜の内なるいのちを思い出し原点に立ち返り充電するのです。

 「病気をきっかけに生き方をギアチェンジする。 肩の力を抜くことが免疫力アップにつながる。病気を乗り越えるとき回り道をすることもある。一つくらい病気があってもいい。残された可能性をどう引き出して自分らしく生きるか。など等」鎌田医師の言葉ですが、おしゃべり会で発信しているメッセージと重なるものですね。

 ブーゲンビリアの活動も丸14年が過ぎ、多くの出会いと別れを経験しました。

 会の主軸の活動におしゃべり会があります。「しゃべることは治ること」「聞くことは治ること」を合言葉にみんなでたくさんのおしゃべりを重ねて、時間薬とともに、徐々に癒え、自分らしさを取り戻していきます。

 再発のリボーンの会では、仲間同士の情報交換や励ましあいは大きな生きる力となっています。またいのちと向き合う日々の中で、生きる意味や限られた時間に何をやるべきか、死への向き合い方や準備をしたいことが見えてきたと、リアルな声が聞かれます。それと同時に死にたくないと、恐怖や不安をポツリ、ポツリと語られます。

 「治してくれる新薬がほしい。新薬に期待してもう少し生きたい。死にたくない。一日でも愛する人のそばにいたい。仕事がしたい。普通の暮らしを続けたい。家族に味噌汁をもう一度作ってあげたい。庭に咲く小さな花のいのちがいとおしい。ただ家で子どもの帰りを待ってあげたい。娘の生理が始まるまで生きていたい。息子の受験を見届けたい。親より先に死にたくない。治療はもういやなど等」の言葉を残して33人のお仲間たちが一足先に旅立ちました。

 人間のいのち、自分のいのちというものは、最後のところではどうにもならない神の領域というか神秘の力に支えられていて、生きるも死ぬもギリギリのところでは、自分の力ではどうにもならない、どうすることもできない一線が厳然と存在していることを、人間は自然の一部であることを仲間たちは身を持って教えてくれました。

 研究しないと治療の進歩はありえません。臨床試験、いわゆる治験によってより良い薬を作っていく、その積み重ねががん医療を良くしていくことにつながり、次に病気になった未来の患者を助ける新しい薬や治療薬を開発することになるのです。臨床試験イコール人体実験と、いまだに誤解されている人もいます。ましてや臨床試験はほかに治療法がなくなった患者を治療するために行うものでもありません。

 欧米人とアジア人には同じ薬剤でも効果や副作用の違いがあり、また遺伝子の違いがあることがわかってきています。遺伝子情報や米文化を初めとする食文化が近いアジアのがん患者たちが、治療薬を開発するためにもっと積極的に協力する必要があるとブーゲンビリアでは考え、支援していきたいと考えています。

 今、私たちがこうして元気でいられるのは、以前どこかの国で患者たちが臨床試験・治験に参加・協力してくれたおかげなのです。臨床試験・治験によってよりよいお薬が出来て、その恩恵を受け私たちは今、健康を取り戻してこうして生きていられるのですから。本当にありがたいことだと感謝の気持で一杯になります。みんなで感謝の種を、ポジティブの種を、臨床試験・治験推進の種を、蒔きたいものですね。

 今度は、私たちが未来の患者のためにギフトを贈る番です。

 「いのちのバトン・薬はみんなで作るもの」お先にがんに罹患し助かった「いのち」を次に「未来につなぐいのち」の営みのありようについて、ブーゲンビリアの仲間たちと一緒に考えてみたいと思います。みんなで一歩前に すすんでみませんか。