絵子の縁側便り 12月号

2022年12月1日
内田絵子

 ここ数年、新型コロナウイルスによる世の中の混乱や停滞によって私たちの日々の行動が大幅に制限されてきましたが緩和されてきた昨今、書店では干支にちなんだカレンダーや手帳を買い求める人々の姿に「もう12月?」と、慌てています。

 初冬から早春に咲く花で、バラに負けぬほどの美しさを誇る椿。大振りで華やかで力強く健気に咲き存在感がある美しい椿、華道家の足立瞳子さんではないけど、私も子どもの頃から椿が大好きでした。でも香りがしないのが子ども心に不思議に感じていましたが、地面にそのままの形で落ちた椿を集め赤・白と順番に並べ、その美しさにひとり悦にいって「ひとりままごと」に夢中だった初冬の光景が妙に懐かしく思いだされます。

 

 年末の風物詩の大掃除、後始末や清掃は、物の終わりのけじめをつけ、次の始まりに繋げる大切な儀式といわれています。さらに年末の大掃除はまさに家庭を見直す絶好の機会で1年の整理をすることで心にもけじめをつけて、明朗な心で新年を迎える準備をします、美しい終わりこそ最高のスタートといいますから。

 まずは、本棚からはみ出し積み上げた雑誌や冊子の山から処分をしようと・・・捨てる前にペラペラとめくると「夜の光彩を探して」のページが目に飛び込んできました。エーゲ海のキクラデス諸島南部に位置する青と白の絶景ギリシャのサントリーニ島の美しい光景。サントリー島の町並み、断崖絶壁に建つホテル、世界で一番夕日が美しいと言われる観光スポットの美しい写真の数々。その美しい夕日を見に世界各国から観光客が集まります。その人々の肩越しに、背伸びをしながら美しい夕日を待つドキドキ、ワクワク感を幸せと感じたことを懐かしく思い出します。次のページにはベネチアにあるサンマルコ広場のオープンカフェで夜遅くまで響く演奏は旅の高揚感を高めてくれた時間を巻き戻して回想します。さらに美しい夜景のページは続き、いつの日か訪ねてみたい世界中の美しい夜景の写真の数々。オランダの「マレへの跳ね橋」「サン・マリノ共和国」「ドバイのアラビア湾に浮かぶ超豪華ホテル」等など・・・頭の中は世界地図が巡ります。そんな状況で師走の片付けが一向に進まないのが毎年の我が家の光景です。

 それでも新年を迎える前には基本に立ち返り後始末、清掃で物の流れをよくして鮮やかなスタートを切ると決意。来年こそ「ほしいものより必要なもの、不必要なものは買わない、持ち込まない」と、ものの整理整頓を心に誓います。

 忙しくせわしい時に決まって本を読みたくなるのが子どもの頃からの悪癖。詩人で童話作家の宮沢賢治の日本語の美しい響き・・・独特の宗教観があって深いところで賢治の文学を支え、宇宙的な生命観を持つ国民作家と言われている賢治の世界観に・・・怖いもの見たさの心境で触れたくなります。雨二モマケズの詩は、子どもたちの人生観を深いところでかえてしまったと語る人がいます。「「良い子」と呼ばれなくてもいいのだ。人に尽くしておきながら「デクノボウー」と呼ばれてもいい、という生き方もあるのだ・・・」」。と心に刺さります。晩秋から初冬に宮沢賢治の「もうけっしてさびしくない なんべんさびしくないといったところで またさびしくなるのはきまっている けれどもここはこれでいいのだ すべてさびしさと悲傷とを焚いて ひとは透明な軌道をすすむ」の詩が初冬の空気に溶けていきます。

 大みそから新年にかけて、神聖な白き和紙で平面の鶴を折ります。「長寿と家内安全」の思いを込めて、永遠に変わらぬ象徴「松の緑」をあしらうのは古くからの習わしです。

 来年こそ、なごやかで明るく、ゆるぎない家庭のぬくもりが拡がり地域が、社会、世界が平和であることを願います。

 みなさま、どうぞ、良いお年をお迎えくださいませ。