絵子の縁側便り 9月号
2021年9月1日
内田絵子
立秋を過ぎると、少しずつ秋の気配を感じ始めます。皆さまいかがお過ごしでしょうか。夜空の星々も輝きを取り戻す星空のベストシーズンがこれから始まりますね。月が出ていなくても、満天の星がまたたいて、月明かりのように明るい夜を「星月夜」と言うそうです。
時には初秋の夜空を仰いでみてはいかがでしょう。きっと子どもの頃の懐かしい思い出がよみがえることでしょう。重陽の節句(菊の節句)では、長寿を授かりますよう無病息災の祈りを込めた菊酒に十五夜のしつらえ・・・ススキをお供えし、月の当たるところに月の形に見立てたお供えのまんまるのお団子15個、お供えした後に月のパワー、霊力が宿るお団子を食べ乍ら見上げるお月様・・・。
お彼岸の頃に咲く白い彼岸花は「また会う日をたのしみに」の花言葉と知りました。ご先祖さんも月のうさぎたちも十五夜さんでの再会を心待ちにしているのかも知れませんね。大きく動く季節のゆくえに思いを巡らせ・・・「浮世のことからしばし離れて生きよ」と、ご先祖さんからの愛溢れるメッセージなのでしょう。
まだ終わりが見えない新型コロナウイルスの感染拡大は社会全体に大きな影響を与えることになりました。リモート勤務、オンライン会議、オンライン授業等のネット社会のコミュニケーション空間を利用することも増えてきました。あらためて情報通信革命は社会を大きく変え情報通信技術の発達に目を見張るものがあります。あっという間に人と人を繋ぐネットの利便性は今では生活に欠かすことができませんが、時に人間にある種の万能感を抱かせるようになっているのではないかと・・・危惧するのも歳のせいかも知れません。
時に時間をかけて人の手によって運ばれる手紙、人と人をつなぐ季節の手紙の数々。人のぬくもりや人間味にこころ動かされ、元気をもらったり、慰められたり、何度も読み返しては感謝や喜びの気持ちを深く味わうことができる手紙は大事な心を繋ぐものではないでしょうか。長く記憶にとどまって、時には人生を振り返るお供となっているのだと思います。
若い頃はゆったりと流れていた時間が、歳とともに、歳をとるごとに不思議と速さが増してくるように感じるのは私ばかりではないようですね。時間の過ぎる速さばかりでなく、過ぎ去って戻ることのない人生を愛おしむ気持ちも、歳をとるごとに募るといわれていますが、過去にはけっして戻れない人生の悲哀や寂寥感を・・・。過去は、変えることも、抹殺することもできません。光陰矢の如しとは本当に良く言ったものですね。
「過去の生活は食ってしまった飯のようなものである」と、森鴎外は言っています。また
「ただ過ぎに過ぐるもの、帆かけたる舟、人の齢、春、夏、秋、冬」と、清少納言も書いていますから・・・・人間は、悲哀や寂寥感を抱きながら生きていくのかも知れませんね。
「今日の生き方が未来を創る」と、いいますから生活規範の一つと心得て、明朗な心で、自身の残り時間を・・・・・いのち燃やして精一杯生きていこうと思います。