いのちのバトン 薬はみんなで作るもの パート13~がん医療における 患者・市民参画(PPIとは)~が、2024年12月8日(日)、主婦会館プラザエフ(地下2Fクラルテ)において開催された。会場は満員御礼となった。

講演を始めるにあたって

ブーゲンビリア統括理事長内田絵子

26年間、取り組んできた薬に対するアンケート実施、冊子作成、署名活動等についての報告があった。

第1部 講演 ~乳がん薬物療法について~

・佐藤一彦医師

(東京西徳洲会病院 名誉医院長 包括的がん診療センター長 乳腺腫瘍科部長)

 乳がんの基本的な病状や臨床病期、分類、治療方法についての説明、最新の薬についての情報提供があった。どのステージでも、「価値に基づく治療」、「何を、いつ、どれだけ」「術前治療・効果による術後治療変更」などをキーワードに丁寧な説明があった。免疫療法、放射線療法の回数減少、リンパ郭清の必要有無などの今後の治療方法の変化にも期待があり、全体的に再発する人が減少してきているとも話された。

・高野利実医師

(がん研有明病院 乳腺内科部長 院長補佐)

 転移性乳がんの治療方針についての薬の種類(一次治療、二次治療、三次治療)の説明があった。トリプルネガティブ乳がんに対しては、陰性3つを否定的に捉えるのではなく、ポジティブに捉えることもできると話された。ヨミドクターのコラムを紹介し、MUSTではWANTを大切に。個別化治療が本格化。一人ひとりの価値観が何よりも重要と話された。

第2部 講演 ~患者参画とは「それぞれの立場から」~

・今村恭子医師

(一般社団法人医療開発基盤研究所 代理理事)

 医師ではあるが製薬業界での仕事が長く、日本と外国と比べることが多くあった。日本は患者・市民団体の体力不足、当事者間のコミュニケーション不足があると感じ、組織化すれば、効率よく目標が達成できると考え、患者が薬をつくることに関わる、患者が学べるコース「Ji4pe」を設立することにした。

・栗原千絵子氏

(神奈川医師大学特任教授)

 「WNA ヘルシンキ宣言」「患者・市民の研究倫理宣言」を通して患者・市民の声を世界に発信している。それは権利保障と安全の確保することになるからだ。患者は被験者ではなく、研究参加者と考え、弱い立場の人に対しても、自分たちの思いを言葉で伝える大切さを話された。患者と専門家を繋ぐ役目だと感じている。

・吉田満美子氏

(グラクソ・スミスクライン(株) ペーシェントアドボカシーマネージャー)

 製薬会社に勤めている立場から、新薬が開発されるまでの説明があった。患者のニーズを知ることから始まり、創薬、臨床試験の過程において患者に寄り添った臨床試験、治療選択が大切だ、最後に「育薬」についても話された。

 その後、「みなさんへサプライズがありま~す!」とベルが高らかに鳴り、サンタクロースではないが、赤いドレス姿のオペラ歌手、森川史さんが入場。参加者の温かい拍手で迎えられた。第1部、第2部の講演で頭が疲れていたところ、素晴らしい歌が披露され、ゆったりと聞き入り、最後は「きよしこの夜」を参加者と共に歌った。とても心癒やされる時間となった。

第3部 パネルディスカッション

 ブーゲンビリア理事長・内田の司会で、武川篤之氏(認定NPO法人 日本アレルギー友の会 理事長)と村上利枝氏(認定がん医療ネットワークシニアナビゲーター)が加わり、総勢7名でのパネルディスカッションとなり、主に2つの議題について、意見交換が行われた。

1.PPI(Patient and Public Involvement)について
  • PPIとは、患者が医療に参加ではなく参画していくこと。積極的に前向きに、共に学んでいくこと、知っておくことである。
  • 「ヘルシンキ宣言」では、言葉を簡単にし、倫理審査会には患者の言葉を入れるなどの人権を守る取り組みもされている。
  • PRO(Patient reported outcome)、患者の生の声を聞くこと、副作用に対して介入していくことは大切である。
  • SDM(Shared Decision Making)とは医者と患者が協力して医療に関する意思決定を行うプロセスのことであるが、それが重要である。
  • 薬に対する副作用の説明は薬剤師。ウィッグなどのアピアランスに対しては看護師と役割分担しているが、外科、放射線科、腫瘍内科とは一緒に話し合いをしている。
  • 腫瘍内科医の立場から言うと、患者との「語り合い」を大切にしている。医療の知識はいらない。自分のことを理解し、自分の生き方を医師に伝えて欲しい。
2.治験について
  • 治験の段階から患者の声を入れていく。薬ができてしまってからでは遅い。
  • 薬の安全性の報告からは医師からしかもらえていない現実があるので、患者は副作用については医師に伝えていって欲しい。
  • 治験がなくても希望がないことではない。
  • 前の治験の時代があっての今の治験がある。
  • 新しい医療システムの構築が必要だ。

 パネルディスカッションは、会場退出時間ぎりぎりまで、熱く活発に行われた。 「今日、この講演会に来ていることが、既にPPIである」と「自分に関係ないことを一日に一回考えると若くいられる」と言う言葉は、関連性がないようだがどちらも「社会的に自分らしく生きる力」であると感じた。

文責 津根静香