絵子の縁側便り 5月号

2023年5月
内田 絵子

 日の光をいっぱい浴びすべてのものが伸びゆく春、何を始めるのにも季節が応援しているように感じます。新緑の頃の空を「青葉空」と呼びますが、若葉越しに見える青葉空に高く泳ぐこいのぼり。日本の美しい光景を探しに足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

 五月晴れの頃、母の手作りの柏餅を食べるのが子どもの頃の楽しみのひとつでした。出来立ての柏餅を頬張ると湯がいた柏の葉っぱの香りが鼻の奥にふわぁ~と香り、母が手習いで書いた仏間の不揃いの文字と柏餅が遠い日の五月の記憶として残っています。

 「人の一生は重荷を負いて遠き道を行くが如し」と書いた母の文字・・・・・。

 徳川家康の遺訓なのは知っていましたが、続く文言を知ったのは随分と後になってからのことでした。文の続きは

「急ぐべからず。不自由を常と思えば不足なし。
心に望みを起らば困窮したるときを思い出すべし。
堪忍は無事長久の基。怒りは敵と思え。勝つことばかり知りて、
負けることを知らざれば、害その身に至る。
己を責めて人を責めるな。及ばざるは過ぎたるより勝れり」

 と、書いてあります。さすが天下人の家康と思わせる含蓄の深い人生訓ですね。時代を超えて、今でも多くの人々にとってありがたい天の警告と捉えられているからでしょうか。

 NHKの大河ドラマをご覧になっている方々も多いかと思いますが・・・・家康は武術も達人で、学問好き、好奇心旺盛で忍耐強く、生薬を自ら調合、服用して73歳もの長命であることは皆さんの知るところです。今で言う「健康オタク」だったのでしょうか。

 作家の司馬遼太郎は、日本人の精神を理解するには、鎌倉以降の武士の生き方を知る必要があると書いていますが、現代を生きている私たちが武士道から学ぶべきものとは何なのでしょうか。武士の本懐は「いついかなる時でも平常心で事に当たること」と説いています。

 現代社会では全てのスピードが速く、時に平常心を保つことも難しく感じることがあります。「知識や情報のグローバル化・インターネット技術・AIの民主化・価値観の多様化」等などをめぐる国際社会の変化の速さが加速度的に増し私たちの予測をはるかに超えて進展しています。

 そんな時代を反映してか、教育の分野でも新しい学習指導要領では「生きる力」がキーワードとなっています。夫々が、感性を豊かに働かせながら人生をより良いものにしていくかを考え、自分なりの課題を見つけ、新たな価値観を生み出していく能力が必要不可欠となる時代へ突入しています。

 個人の生きる力を高めるとともに国際的な競争力を高めることが、国を豊かにすることに繋がっていくとの考え方でしょうか。

 激動の社会変化の真っただ中で、生きている私たちですが・・・・時にふとたちどまって、時代の先取りや多様な価値観を追い求めるだけでなく・・・「謙虚に・人のために」という学びの側面の大切さ、本質を思い返えしてみることも必要かと思います。

 国際社会の中にあって・・・武士道の「自他ともに尊び合う心・国歌や故郷を愛する心・親祖先を敬う心」等の人としての生き方や心得を先人の教えから学び、自己成長の糧として平常心で生きて生きたいものだと痛感しています。

 

 私も皆さんに習って、老体にムチ打って残りの人生の時間を大切に、元気に、楽しく生きて生きたいと思います。今後とも、どうぞよろしくお願い致します。

 Photo by 玉井八平氏(玉井公子副理事長父)「武甲山」