♪ブーゲンビリア第107号(通巻174号)2013年11月号より

 「紅葉前線は北から南へ山頂から山里へ移動し、標高によって気温や樹林帯は、変化して、三色に色分けされた紅葉を見ることが出来ます。」などと、毎年この時期になると心惹かれるアナウンサーのコメントを聞きながら、紅葉の美しい映像を眺めています。四季のある国に生まれたことにいつくしみと喜びを感じます。

 秋の日はつるべ落とし。幼かった頃の秋の夕暮、まだまだ遊べるとばかりに石けり、縄跳び、馬跳び、かくれんぼ、鬼ごっこにおままごと、お姫様ごっこにと夢中になって遊んでいるとあっという間に暗くなるので、何とはなしにせわしくて、ドキドキした気分になった秋の夕間暮れの時間は、何か特別な季節のように思えたものでした。

   今でも「かたかげになったらお家に帰るのよ」と、母の声が聞こえて来るようです。日が西に傾くころには南北のとおりに影ができ、長くなった自分の影を見るとなんだか心細くなって走って家に帰った平和で穏やかな思い出でがよみがえってきます。

 先日、パネリストとして「東京大学のがんプロフェツショナル基盤養成推進プラン~市民公開講座~に参加させていただく機会がありました。テーマは「がん患者の心」という普遍的で、みんなが必要性を感じているとても大事な題材でした。

 「がんという病気は疑われた時から終末期までこころにもいろいろな影響を及ぼします。がんの治療法が進歩していく中で患者や家族がいかに気持ちのつらさの無いように過ごしていくかも重要な課題と考えられます。今回の市民公開講座では様々な視点からがん患者のこころについて考えていきます。」と、チラシに記されていました。

 誰にとっても無縁ではない病気、特に「がんという病」になって人は絶望的な気持ちに襲われたりがんの告知や再発の診断を受けたりして、この世には自分の力だけでは何ともし難いことがあるんだと実感するのかも知れません。誰もが、「がん」という言葉に衝撃の洗礼を受けるのではないでしょうか。

 「がん」ということばから連想するものは重く、死と向き合うイメージをぬぐえません。長い落ち込みから昨日より少し元気になろうという感情の起伏を繰りかえしながら立ち直ってゆくものではないかと思います。

 患者団体としても「しゃべることは治ること・聴くことは気づくこと・書くことは癒えること」を大事にしたおしゃべり会は、心を解放できる大切な時間と考えています。また、がん患者自身が、自らの内に持っている問題を解決する能力を持っていることを信じて、共感を示したり、感情と向き合うことを大切にしています。

 「せっかく乳がんになったのだから、パワーアップした素敵な人生を生きよう」「病気・がんは生活の赤信号。気づきをもらったのだから内省し、より良い人生を生きよう」を合言葉に16年目の「明るく元気に」磨きをかけていきたいと念じています。

 その元気を保つ1番の秘訣は「大自然に合わせる生活」みんな仲良く暮らす・高らかに笑う・自分の力で何とかなるさと思う・耐性をつけて慣れる・気長に頑張ってみる等など、自分らしく、自分のペースで元気になれたらいいのだと思います。  人間は、大自然の精妙な法則に抱かれて生かされているのだということを認識することに尽きるのではないか、そんな思いが強くなった今日この頃です。

 諏訪中央病院の名誉医院長の鎌田實医師は、多くの著書や講演であたたかな激励でがん患者さんに勇気をあたえてくださいます。「がんばらずに、されどあきらめずに・・・。心と体はつながっています。体に障害があったとき、体の治療に手を尽くしたけど、良くならないその時にこころの面からアプローチしてみたら、体に起きている病気の状態が変わるということは、結構あるんですよ。希望とは、物事をポジティブにとらえるとことから生まれてくるのだと思いますよ」とのエールがありました。

 また、「笑いこそが最高の処方箋」がモットーの乳腺外科医の久高学医師の言葉にも元気が出てくるのではないでしょうか。多くの乳がん患者を診た一つの傾向として「人生を決めるのは、やっぱり起こった出来事ではない。出来事をどう考えるか。幸せな人不幸な人って言いますが、一生の間に起こる出来事は一緒だと思うんですよ。肯定的に考えたり否定的に考えたり、一つ一つは些細なことでも、どう考えるのかの積み重ねですから・・・」のうん蓄のある言葉に合点がいき、「そうだ、そうだ」と一人うなずきました。

 早期の乳がんの手術をした方を心構えで分けて、経過を調査した報告があるそうです。サイコオンコロジー(精神腫瘍学・がんが心に与える影響、心や行動ががんに与える影響など、がんに関する心理的な周囲問題解決を目指す学問)の調査です。 手術後3か月の女性を「前向き」「否認」「あきらめ」「絶望」の4つのグループで比べると、前向きなグループで一番生存率がよくなる。絶望のグループに比べると4倍にもなるそうです。

  「生きている。それだけで素晴らしい-遺伝子が教える『生命』の秘密」
                       村上和雄・阿部博幸共著 より

 ここのところ年齢のせいか、錦繍の紅葉よりも晩秋から初冬にかかる彩度を抑えた景色に心惹かれます。みなさまには、どんな豊穣の秋がおとずれるのでしょうか。

 ゆく秋をどうぞゆっくりと堪能してください。