♪ブーゲンビリア第90号(通巻157号)2012年6月号より

 雨は降る時に降らねばならない、のことばに心を寄せると・・・いのちの音が聞こえてきませんか。東アフリカのサバンナでは雨季と乾季が交互に訪れます。

 乾季にはまた川や池が干上がるため、いきものたちはいのちの水を求めてわずかに残る水場に集まってくるそうです。ヌーたちは50キロメートル先の雨の匂いがわかり、・・・百数十頭の集団となって雨の匂いに向かって、いのちの水と新しい草を求めてひたすら歩き続けると言われています。

 水の恵みをもたらす雨は、水源を潤し、全生物にいのちを与えるのです。雨が降らなかったら人も万物も生きてはいけないのですから・・・。梅雨時には潤い豊なサバンナの大地の鼓動に思いをよせ、時には、ショパンのように雨の降る音や雨だれに耳を傾け、しんみりと心が落ち着いてくる時間を大事にしたいと思っています。

 それでも心がざわつく時、副作用に翻弄されそうな時や長引く治療にウツウツと心が固くなったと感じた時は・・・梅雨の晴れ間に戸外へ出て深呼吸してみませんか。

 湿った空気とともに、立ちのぼる湿ったような土や青草の匂いに満ち、たっぷり雨を吸った後の垣根や木々の葉が急に青みを増して生きいきと見え、何だか生まれ変わったようなみずみずしい光景に元気がもらえそうです。

 会員の皆様方もそれぞれの抱えた問題や立ちはだかる課題を乗り越えて、「自分は自分のままでいい」という自己肯定の心境にたどり着き、内なる自分と折り合いをつけ穏やかな日常をとり戻した頃に、もしかしたら・・・肉親や家族の病や介護に看取り、お別れと直面する時を迎えることもあるかもしれません。

 そんな時、誰もが、家族や自身の老いを重ね、老い支度を意識すると自身の持ち時間の頼りなさに愕然とし、何だか切なくなってきます。・・・ついこの間まで、若さの主役のど真ん中にいた自分が、あっという間に老いを意識せざにはいられない場面を迎えることとなるかも知れません・・・なんと人生は無常なものでしょうか・・・・・・。

 「若きにもよろず強きにもよろず、思いも懸けぬは死期なり。今日まで遁れ来にけるは、ありがたき不思議なり。暫しも世をのどかに思いなんや。」 徒然草より。

   花は満開の時を、月は満月を見るのばかりがいいとは限らない。
   雨で見えぬ月を恋うるのも、すだれをおろした室内にいては暮ゆく春を
   思うのも、しみじみとした情趣がある。盛りの美ばかりが美ではないのだ、
   欠けたる所があるのにも風情がある、と説いていって、賀茂の祭りの盛んな
   さまの面白さにふれたあと、この人たちもやがてみな死に、自分もまた死んで
   ゆく存在だという観念があらわれて、このことばになる。

 それでも、人は力を振り絞って生きていかねばなりません。以前の絵子のティータイムで詳しくご紹介いたしましたが、再度ふれさせて頂きます。

 イスラエルが生んだ今世紀最大の哲学者といわれるマルティン・ブーバーが、晩年に残した言葉をお伝えし、勇気と希望につなぎたいと思います。

 「老いることはまた楽しいものだ。ただし創造することをわすれさえしなければ・・・」

 常にチャレンジ精神を燃やし、生きがいを見出して生涯現役でがんばっている高齢者の方々は「心の若さの秘訣、それは創造への意欲」ですとメッセージされています。

 米国の心理学者のハム・マズローは、創造とは「創造されたもの」ばかりではなく、人間生活のさまざまな領域に見出すことができるといっています。マズローは創造性を二つの視点からとらえました。一つは、特別な才能をもっている人が何か産物をつくりだすこと。もう一つは、平凡な市民が誰でも日常生活の中で示す創意工夫です。自己実現の創造性。

 作品という結果が問題になるのではなく、創意工夫の過程が大切とされているのです。では、どうしたら「自己実現の創造性」を身につけることができるのでしょう。

 「それは子どものように外界を「あるがまま」に受容し、自分を「あるがまま」に表現することによって可能になるのだそうです。「あるがまま」の自己をすなおにさらけだすとき、創造性がきらめくのです。何故なら、私は他にかけがいのない唯一無二の存在なのですから。人間は皆それぞれにかけがいのない「本性」とか「個性」を持っています。その人にしかない「本質」というものがあるでしょう。ところが通常は、既成の考え方やワクにはまった行動に縛られて、自分自身の本性や個性、本質を発揮することがなかなかできません。創意工夫のチャンスはいくらでもあるのに、逃してばかりいるのではないでしょうか。・・・・・中略・・・・・」
(「存在の心理学にむかって」より)

 人間の土台はこころといわれています。日常生活の中で、基本的なものを押さえながらの創意工夫や自己実現の創造性。それは、きっと誰かの喜ぶ笑顔や誰かの役に立つ生きがいを、ワクワク!ドキドキ!しながら探すことかも知れません。

 風の匂いをかぎ、梅雨の晴れ間の青い空にまっすぐ白く浮かぶ雲を眺めながら、走っても走ってもまだ続く大地をイメージして・・・・・・両手を広げ、目をとじて、深呼吸をしてみると「よし!自分の人生だ。しっかりやろう!」と思えてくることでしょう。

 ワクワク・ドキドキしながら創造性のつばさを広げてみませんか。 きっと、昨日より少し元気になるでしょう!!